通訳・翻訳エージェントがAI翻訳に対抗するためにつくる「架空の香水」から考える香りとAI
![Cover Image for 通訳・翻訳エージェントがAI翻訳に対抗するためにつくる「架空の香水」から考える香りとAI](/_next/image?url=%2Fassets%2Fblog%2Fimaginary-perfume%2Fcover.jpg&w=3840&q=75)
2024 年 4 月 にクラウドファンディングサイトREADYFORで「翻訳者の想像から生まれた『架空の香水』を販売したい」というプロジェクトが開始されていた。
- 株式会社テンナイン・コミュニケーションは、翻訳者が想像した「架空の香水」の販売のためのクラウドファンディングを実施。
- AIの影響を受ける翻訳業界に新たな活路を見出す試みとして、翻訳者自身が創り出した香水を商品化。
- このプロジェクトは、翻訳の楽しさを再発見し、AIには模倣できない人間独自の感情を表現するもの。 プロジェクトはすでに目標金額に到達せず終了してしまっており支援することはできないが、そのコンセプトについて見ていく。
翻訳者の想像から生まれた「架空の香水」
「架空の香水」は、翻訳作業時に感じる爽快な気分をインスピレーションに生み出されたフレグランスです。フレッシュなシトラスの香りからスタートし、ハーブ、ホワイトムスク、リリーなどの清涼感あふれる香りが重なり合っています。この香水は、テンナインが主催した「翻訳者グランプリ」の一環として企画されました。
近年の機械翻訳の進化により、翻訳者の役割が変わりつつある中で、翻訳者ならではの強みは五感を使った経験から生まれる独自の判断力にあると考えられました。言語と香りという一見相容れない要素を組み合わせることで、翻訳者のスキル、つまり他者の考えや体験を理解し表現する力を磨くことができると期待されました。
香水を言葉で表現するという難しい課題に取り組むことで、翻訳者としての表現力が養われる狙いがありました。この架空の香水を通して、翻訳者の日々の作業に新たな可能性が広がり、異なる分野の融合から新しいアイディアが生まれることが期待されています。
海外でも盛んな香りにまつわるクラウドファンディング
近年、香り関連の革新的な製品やサービスの開発において、クラウドファンディングが有力な資金調達手段として活用されている。例えば、米国のスタートアップInexpensiveは2015年、Kickstarterで本格香水でありながら低価格を実現した消費者向け香水の製造資金を募集し、目標を大きく上回る支援を集めた。
また、パリのPiñathequeは2019年にKickstarterで、スマートフォンアプリで香りの濃さをコントロール可能なディフューザーの開発資金を集めた。英国のCbiioは2021年にIndiegogoで、音楽のライブ演奏に連動して香りを発する革新的な装置「Moodylizer」の資金を調達した。
一方、米国のScentificは2022年にKickstarterで、VRデバイスと連動して現実の香りを再現するバーチャルリアリティ体験の開発資金を募った。ロシアのPerfumer Hは2017年に、植物や花の本物の香りをボトリングした製品の開発資金をBoomStarterで集めた。
このように、革新的な香り体験をもたらす製品やテクノロジー、ユニークな付加価値のある香水などが、クラウドファンディングで資金を調達する事例が世界各地で見られる。香り関連の新しいアイデアを形にする上で、クラウドファンディングが有力な選択肢になっていると言えるだろう。
香り業界におけるAIの脅威はあるのか
香り業界がAI時代に対抗していくためには、人間ならではの感性と創造性を最大限に活かすことが何より重要となります。AIは既存のデータから新しいものを生み出すことは得意ではありませんが、人間は独自の感性と経験に基づいてオリジナリティ溢れる香りや製品を開発することができます。香りそのものをAIで完全に再現するのは難しく、この点が香り業界の強みとなるでしょう。
また、香りは五感に訴えるものであり、AIにはなかなか体験価値を提供することができません。店舗での香りの体験イベントや、AIでは再現できない特別な香りの提供など、体験へのこだわりを強化することで差別化を図ることができます。
一方で、AIとうまく協働することも大切です。AIに膨大な香りデータを学習させ、新しい組み合わせを発案してもらう。そこに人間の創造性を組み合わせて最終的な調香を行うなど、AIと人間の長所を組み合わせる方法も検討すべきでしょう。
さらに、香りへの理解と愛着を持つ顧客コミュニティの形成や、ブランドストーリーの発信などを通じてブランド力を高めることが重要になります。AIにはこうした感情移入は難しいため、人間ならではの取り組みが有効です。
最後に、一点物や高級香水など、付加価値と希少性の高い製品開発に注力することで、大量生産に適したAIとは違う差別化を図ることができます。
このように、香り業界はAIと対峙するのではなく、人間の感性と経験を最大限活用しつつ、AIとの上手な組み合わせを見つけていくことが、AI時代の対抗策となるでしょう。