香り産業の影に潜む児童労働の現実

香りのすゝめ公式
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香水と聞けば、エレガンスやラグジュアリーを想起する人も多いでしょう。しかし、近年、その華やかさの裏に潜む闇が明らかにされつつあります。特に、二つの著名なブランド「ランコム」と「エアリン ビューティー」が児童労働と関連づけられたことは大きな衝撃を与えました。この事態の背景に迫る BBC のドキュメンタリー「Perfume's Dark Secret」は、香水業界の問題を浮き彫りにしています。 香り素材の供給チェーンを調査する中で、BBC はエジプトのジャスミン収穫に従事する子供たちの姿を捉えました。調査においては、わずか 5 歳の子供たちが畑で花を摘む様子が記録されています。ランコムの「イドル ランテンス」やエアリンの「イカット ジャスミン」などの香水は、エジプト産のジャスミンを原料に使用しており、同国は世界のジャスミン供給の約半数を占める主要産地です。しかし、このジャスミンを摘む多くの労働者は、非常に低賃金で働かなければなりません。現地の工場が定めるジャスミンの価格設定が低く、十分な生計を立てるには子供たちの労働力が欠かせない状況にあります。 この問題を受けて、エスティローダーやロレアルなどの親会社は、それぞれの声明を発表しました。エスティローダーは、「すべての子供の権利を保護することを信じ、供給者には直ちに問題を調査するよう求めています」と述べています。また、ロレアルも自社のウェブサイトで、「人権の尊重と保護に深くコミットしており、あらゆる形の児童労働を受け入れられません」とし、エジプトでの問題を特定した後は直ちに対応を始めたとしています。 これらの企業の声明は、確かに意図は良好であり、必要不可欠なものです。しかし、問題はどこまで具体的にこれらの方針が実施されているかという点にあります。例えば、エスティローダーのサプライヤーコードでは、新しい供給者が基準を満たす必要があるとし、現地での監査が行われることが記載されています。しかし、監査がどのように、どの頻度で、どの基準で行われるかは不透明です。 さらに、ロレアルのガイドラインによれば、新旧の供給者に対する定期的なビジネスインテグリティの評価が行われるとしていますが、その具体的な頻度や基準についての詳細は不明瞭です。このような監査体制の不明確さが児童労働問題への取り組みを妨げているのではないかという懸念が残ります。 今回の事件は、特定の香水ブランドに限られた問題ではなく、供給チェーン全体の問題であることが浮き彫りになりました。これには、政府、地元工場、大手香料会社、そして香水を購入する消費者全てが関与しています。産業界は、原材料やサプライチェーンの透明性において大きな進展を遂げましたが、製品に含まれる原料と同様に、そこに関与する人々の置かれた状況も製品の一部であることを忘れてはなりません。 本稿は、香水業界の倫理的な責任と消費者として私たちが果たすべき役割について考えるきっかけを提供します。豪華な香水の裏に潜む現実を知り、より持続可能で倫理的な消費を目指すための第一歩となることを願っています。